自分の死後、遺産をどうするかというのは、生前に考えておくべき課題です。
特に不動産に関しては、手続きなども多く相続が大変です。
希望通りに相続をおこなうには、遺言執行者を選定しておく必要がありますが、遺言執行者とは一体何でしょうか?
また遺言執行者がいる場合といない場合において、不動産売却に違いが生じるのかというのも、気になる問題でしょう。
そこで遺言がある時の不動産売却に関する情報や注意点をまとめます。
遺言執行者って何?遺言の基礎知識
遺言執行者はその名の通り、遺言に書かれている事柄を実行する人のことです。
遺言執行者は民法に従って遺言書の内容を実行する義務が生じます。
そのため相続の手続きなどさまざまな処理をおこなう必要性があり、同時にこれらを実現する権利も持つことになります。
基本的には遺言書の中にて遺言執行者が定められています。
もし遺言書の中で指定されていない場合は、相続人同士で話し合いをしたり、家庭裁判所に申し立てをおこない選びます。
そもそも遺言とは
遺言書は、自分の最後の思いや希望を残しておける書類です。
例えば遺産の配分方法であったり、財産の処分方法などを、相続人に示しておくことができます。
また遺言書に残しておける内容は、相続に関することだけではありません。
残された家族への感謝の想いなど、メッセージを伝えるために遺言書を作成するケースもあります。
このような家族に対する感謝の気持ちを贈るだけの場合には、特に形式にとらわれず好きなように遺言書を作成して大丈夫です。
一方で、相続などに関する事柄を実行させるためには、法的な効力を持たせる必要性が出てきます。
きちんと定められた形式で遺言書を残さないと、遺言書は無効となってしまうため、トラブルを回避できるような書き方をしなければなりません。
法的な効力のある遺言書って、どんな時に必要なんですか?
遺言書がなければ揉めることが予想される場合ですね。一例ですが実子だけではなく、隠し子にも遺産を相続したい場合などです
遺言には3種類!特徴を知ろう!
遺言書には3種類あります。
それぞれ特徴が異なりますので、書く際にはどの形式にするかを選択する必要があります。
3種類の遺言書について見ていきましょう。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、全ての文字を自筆にて書き上げる遺言書になります。
代筆などは認められておらず、全て自筆でなければ効力を持ちません。
しかし2019年の法改正により、財産目録部分のみはPCなどでの作成も可能となりました。
また文字を書くことが難しい人の場合ですと、作成方法も少し緩和されています。
作成する際に、きちんと法的な効力を持たせるために気を付けたいポイントは以下です。
- 日付を記載する
- 署名を記載する
- 押印する
自筆証書遺言は自分自身が作成し、保管も自分自身でおこないます。
誰にも知られずに遺言書を残しておけるのがメリットですが、自分の死後、遺言書があることに気づいてもらえないケースも多いです。
そのため信頼できる家族に、保管場所を知らせておくなどの対策をしておいた方が無難でしょう。
保管のみを弁護士などのプロに依頼することもできます。
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証役場にて公証人立ち合いの元で作成するものになります。
公証人と、他2名の証人がその場に立ち会い、内容を読み聞かせのうえ文章にしていきます。
デメリットは自筆証書とは異なり費用が発生する点です。
手数料がかかるのですが、金額は公正証書に記載する財産の金額によって変わります。
また証人を自分で用意せず、公正役場に紹介してもらった際にはプラスで料金がかかります。
しかしながら公正証書遺言なら公証人と一緒に作成できるため、法的に無効となるような記載不備などの心配がありません。
また保管も公正役場でおこなうため、偽造や紛失のリスクがないのも公正証書遺言のメリットです。
近年では公正証書遺言を選択される方が増えており、人気の高い作成方法になります。
秘密証書遺言とは
秘密証書遺言は、遺言の内容自体は自分自身で作成します。
自分で作成するという点に関しては自筆証書遺言と同じですが、こちらは自筆ではなくパソコンなどでの作成も可です。
そのようにして作成した遺言は自分で保管せず、公証役場にて保管します。
保管の際には公証人と、2人の証人の立ち合いが必要になり、この点は公正証書遺言と同じです。
つまり秘密証書遺言は、遺言の内容に関しては相続人に秘密にしておきますが、存在自体はしっかりと伝えておくというやり方になります。
メリットとしては、内容を死後まで伏せておける点です。
また遺言書の存在に気付いてもらえないといったリスクもなくすことができます。
一方で遺言書の内容に関して公証役場は関与していないため、記載ミスなどがあると法的に無効になる可能性があります。
また費用も発生するため、現在ではあまり用いられていない方法です。
遺言執行者が必要なのはこんなケース
遺言執行者がいなくても、不動産の相続自体は可能です。
いない場合ですと、基本的には相続人が遺言書の内容に則って法的な手続きをおこなうことになります。
そのため相続人が1人しかいないケースなど、揉めるリスクがないようでしたら、わざわざ遺言執行者を選任する必要性はないでしょう。
しかしながら相続人が複数人いる場合ですと、相続の手続きの際に全員の押印などが必要となり、手続きが複雑化します。
遺言執行者が選定されていれば、執行者が代理で手続きを行えるため、早くスムーズに手続きを終えられます。
また相続人が高齢であるなど、相続手続きが大変な場合にも遺言執行者がいることで負担軽減になるでしょう。
一方で必ず遺言執行者を選定しておく必要があるケースも存在します。
それは以下のパターンが該当します。
- 子供の認知をおこなうとき
- 推定相続人の廃除をおこなうとき
- 推定相続人排除の取り消しをするとき
- 相続人が所有権移転登記に非協力な場合
また次にご紹介する清算型遺贈を検討されている場合も、遺言執行者を選定した方が無難です。
清算型遺贈とは?
清算型遺贈は、不動産や有価証券などの財産を売却したうえで相続人や第三者に遺贈する方法です。
例えば不動産を売却せずそのままの状態ですと、複数の相続人に相続させることができません。
受け取れるのは基本的に1人のため、不公平が生じてしまいます。
それを防ぐために財産を一旦現金に換えたのちに分配するのが、清算型遺贈です。
清算型遺贈をおこなうと、売却代金から経費を差し引いた残金を、遺言書に従い相続人などが相続することになります。
少なからず法的な手続きが絡んできますので、相続人が全てを実行するのは大変です。
そのため、法的な知識のある司法書士などを遺言執行者に定めておくと、相続や遺贈の手続きがスムーズになります。
清算型遺贈をおこなうメリット
清算型遺贈のメリットは、やはり相続人の負担軽減ができることです。
贈与するにあたってはさまざまな手続きが必要となりますが、これらの手続きを身内の死という精神的なダメージがある中で実行するのは大変です。
特に不動産の売却に関しては、相続人全員の印鑑証明などが必要です。
万一、相続人の中に非協力的な人がいる場合には、なかなか手続きが進まないことになります。
そもそも相続人同士が遠方に住んでいるようですと、連絡を取ることすら大変かもしれません。
遺言執行者を選定しておき、清算型遺贈を行えば、不動産売却の手続きは執行者に代理で実行してもらえます。
また不動産を残してしまうと、どのように管理すべきか相続人が悩むケースもあります。
故人の遺志に従い不動産を残しておきたくても、遠方に住んでいる場合などは難しいです。
遺言書にて売却する旨を記載して貰えれば、思い入れのある不動産を自分の手で売却するべきか悩む必要がありません。
遺言執行者ができること!遺言がある時の不動産売却の効力
遺言執行者は、遺言書の内容に従い、相続人の代理として行動します。
そのため遺言執行者は強い権限を持つことになり、それは民法によっても定められています。
不動産売却に関しても、所有権転移登記を相続人の代理としておこなうことが可能です。
もし相続人同士でトラブルが発生している場合でも、解決を待つことなく遺言執行者は行動に移すことができます。
つまり相続人の合意なしで不動産売却を行えるのが、遺言執行者です。
強い権利と効力があるからこそ、遺言執行者についてきちんと知ったうえで選定するようにしましょう。
知っておきたい!遺言執行者を決める際のポイント
遺言執行者を決める場合には、誰でもよいという訳ではありません。
むしろ適任の人を選定しないと、余計にトラブルが膨れ上がる可能性もあるため、遺言執行者を決めるポイントを押さえましょう。
遺言執行者の権利と効力を把握する
遺言執行者の権利義務は民法1012条で定められており、遺言執行者には以下の権利義務が与えられます。
- 相続財産の管理ができる
- 遺言執行のため必要な行為を実行することができる
つまり被相続人の死後、遺言書の内容に従って遺産を管理できるのは、相続人ではなく遺言執行者です。
その後遺産分配が滞りなく完了した後で、所有権が相続人に移ることになります。
また遺言執行者は相続人の代理人という立場になりますので、委任状なしで不動産売却手続きが可能です。
遺言書に記載されている場合には、相続人の許可なく清算型遺贈をおこなえます。
もし相続人が勝手に不動産売却をおこなった際にも、遺言執行者はそれを取り消す権利を持ちます。
実際に遺言執行者選びをおこなう
遺言執行者は基本的には被相続人である、遺言書作成者自身が決めることになります。
そのため自分自身が納得できる人物ならどなたでも、法律上は問題ありません。
しかし以下に該当する人物は遺言執行者になれないことが、民放1009条にて明文化されています。
- 未成年者
- 破産者
上記以外の人物であれば、法律上は遺言執行者になることができるものの、適任者とそうでない人が存在します。
遺言執行者はどんな人がふさわしく、どのような人はやめておいた方がよいのか、見ていきましょう。
遺言執行者はこんな人がベスト!
遺言執行者はその役割として、さまざまな法的手続きをおこなう必要性が生じます。
そのため少なからず法律の知識を有している人でないと大変です。
よって遺言執行者として以下の専門家に依頼するケースが多いです。
このような専門家ですと、これまでも遺言執行者として手続きをおこなったノウハウがあります。
不動産売却などもスムーズに進められるでしょうから、非常にベターな選択肢です。
特に法律の専門家である弁護士は、万が一遺産相続において親族同士でトラブルが発生した際にも、適切に対処してもらいやすいのもメリットではないでしょうか。
司法書士と行政書士の場合には、弁護士ほど幅広くトラブルをカバーできる訳ではありません。
とはいえよほど特殊な案件でない限りは、司法書士や行政書士であっても十分に対応して貰えます。
一方、遺言執行者として個人ではなく信託銀行に依頼することも可能です。
被相続人の死後は故人の預貯金の名義変更などの手続きが必要になります。
信託銀行であればこのような手続きがスムーズなのが魅力ですが、手数料が高額になりがちです。
いずれにしろ遺言執行者を選定する場合には、その旨を遺言書内に記載しなければなりません。
遺言執行者、こんな人は辞めておこう
未成年者と破産者以外ならどなたを選定しても問題はないのですが、利害関係が生じる人はやめておきましょう。
トラブルの元になりかねません。
遺言執行者は相続財産の管理をおこなう立場にありますので、第三者の立場で公平に手続きをおこなえる人がふさわしいです。
そういった意味で、渦中の人物である相続人に遺言執行者を依頼するのはNGです。
遺言執行者となった相続人と、そうでない相続人の間に、余計な問題が発生する危険性があります。
また遺言執行者になるとさまざまな手続きを行わなければならず、非常に労力がかかります。
身内を失った悲しみにくれている相続人に依頼するには、あまりに荷が重いです。
これらをまとめて考えると、やはり遺言執行者は第三者であるプロに依頼するのが最も無難でしょう。
他に遺言執行者を選ぶ際に気を付けたいことってありますか?
なるべく長生きしそうな人物を選ぶことです
それはなぜですか?
遺言執行者が亡くなって場合には、また新たな人を見つけるなど、手続きが増えてしまうからです
遺言執行者を選定しておくメリットとは?
遺言執行者は必ず選定しなければならない訳ではありません。
それでも遺言執行者を決めておくのには、いくつかメリットがあるからです。
そのメリットとは一体どんなことなのか、見ていきましょう。
自分の意志通りに遺産分配できる
遺言執行者を定めておくと、自分の意志通りに遺産を分割しやすいです。
例えば隠し子がいるケースです。
この場合、隠し子にも遺産を相続させたいとなると、これまでの家族としては納得しにくいです。
揉めてしまう可能性が予想されます。
遺言執行者がいない場合、全ての相続人の手続きが必要です。
反対している人がいるとなかなか事が進まず、不動産売却ができません。
また、遺産を相続させない親族のことを遺言書に記載している場合も、遺言書通りに遺産分配するのが難しくなります。
やはりトラブルの原因となり、不動産売却が進まず、残された親族が困る可能性が懸念されるでしょう。
親族間の言い争いが続いている間は売却できないため、いずれ空き家問題などに発展してしまうこともあります。
遺言執行者がいれば、このようなトラブルが発生していても、単独で売却の手続きに踏み切れます。
遺言書に書かれている内容を実行してくれるため、自分の死後、希望を反映させたいのであれば遺言執行者を指名しておきましょう。
相続人の負担を減らせる
遺言執行者を選定しておくことは、残された親族の負担軽減に繋がります。
相続するにあたっては法的な手続きや不動産関連の手続きが非常に多く大変です。
例えば以下のような手続きをしなければならないため、知識がないと時間もかかってしまいます。
- 預貯金の名義変更
- 売買契約の押印
- 不動産の登記に関する手続き
普段の仕事もある中、役所や法務局に度々足を運ぶのは労力がかかります。
もし遺言作成者と離れて暮らしていた場合には、遠くの地まで赴く必要性も出てくるでしょう。
遺言執行者がいれば、このような煩雑な手続きは全てお任せできます。
残された親族としては非常に安心感があるため、相続人の負担軽減を考慮すると遺言執行者を決めておく方がよいかもしれませんね。
遺言執行者がいれば、手続きはスムーズに終わりますか?
通常は遺言執行者として法律のプロを選定します。これまでに遺言執行者を引き受けた経験があるハズですから、手続きも慣れたものですよ
結果として、残された親族の手に早く遺産が渡りますね
相続人同士のトラブルも回避できますので、残された人を困らせない方法でしょう
遺言執行者を選定した際のデメリットとは?
遺言執行者がいることで親族間のトラブルなどを防ぐことができますが、選定することによって少なからずデメリットも存在します。
それは一体どのようなことか見ていきましょう。
遺言執行者への報酬が発生する
遺言執行者を定めると報酬を支払う必要性が出てきます。
被相続人は遺言書の中で、その金額を示しておきます。
報酬金額としては事前に遺言執行者と相談し、決めておくとよいでしょう。
遺言執行者の任務は辞退することもできます。
あまりにも低い金額を遺言書に記載した場合、断られてしまう可能性があるため、生前にきちんとすり合わせておいた方が無難です。
遺言執行者への報酬は慣例によりおおよその相場があります。
報酬の相場表を下記に示しますので、参考にしましょう。
弁護士の場合 | 司法書士・行政書士の場合 | 信託銀行の場合 |
---|---|---|
相続遺産の1~3% | 相続遺産の1%前後 | 相続遺産の1~3%かつ最低料金は105万円前後 |
相続財産の金額により費用は変わってきます。
一般的には弁護士と比較すると司法書士及び行政書士の方がリーズナブルです。
一方で信託銀行は最低料金が高額ですから、遺産相続する財産が相当多い場合などに依頼します。
いずれにしろこちらの報酬金額は、特に問題なく基本報酬で収まるケースの相場です。
特殊な事情がある場合には、さらに報酬金額が上乗せとなる可能性もあります。
遺言執行者が不動産を売却する際の主な流れ
遺言執行者が不動産を売却する際には、以下の手順でおこなうのが一般的です。
項目ごとに詳しく流れを見ていきましょう。
1.遺言執行者に就任し、相続人に通知をおこなう
遺言執行者が遺言書内で指名されている場合には、遺言執行者となれるのは指名された人物のみです。
遺言執行者になることを承諾し、その座に就任しましょう。
もし遺言書内にて選任されていないようでしたら、相続人同士で協議するか、家庭裁判所に申し立てをおこない遺言執行者を決めます。
いずれにしろ遺言執行者は、就任の旨を相続人と利害関係者に通知する義務があります。
就任したら就任通知書の作成をおこない、関係者に発送します。
これによって即座に就任した事実を伝えましょう。
2.財産や相続人の調査を行い、目録を作成する
就任通知書の発送を終えたら、故人の財産にどのようなものがあるのか調査を開始します。
例えば財産としては、以下のようなものが多いです。
- 預貯金
- 有価証券
- 不動産
- 車
- 貴金属類
このような財産になり得るもの全ての確認をおこないましょう。
また財産とはプラスのものだけではなく、負債財産も存在するため、そちらの有無も確認しなければなりません。
財産を調べると同時に、相続人の範囲に関しても調べ、書類作成をおこないます。
調査した財産を一覧表にし、財産目録を相続人に交付します。
こちらは重要書類のため慎重に取り扱わなければなりません。
公証人に作成を依頼したり、相続人立ち合いの元で作成をおこなうのが一般的です。
3.不動産を売却する
不動産の所有権が故人のままですと、第三者に売却することができません。
そのため一旦所有権を相続人全員に移すことになりますが、そこで必要なのが所有権移転登記の手続きです。
遺言執行者が法定相続人の代理人という立場で、法務局に赴き申請します。
その後で実際に不動産売却をおこなうのも、遺言執行者の務めです。
売却の際には買主と共同で売買による所有権転移登記をおこない、所有権を買主に移します。
もし遺産の中に負債が存在する場合には、不動産売却によって得た代金で弁済をおこないます。
4.相続人に完了報告をし、売却代金の清算をおこなう
不動産売却を終えた後は、売却代金の清算作業をおこないます。
売却するにあたっては、不動産会社への手数料などさまざまな費用が発生しますので、売却によって得た代金より差し引きましょう。
また遺言執行者への報酬も、この代金から支払うのが一般的です。
遺言書に遺言執行者への報酬が記載されている場合には、その費用を支払います。
もし記載がないようであれば、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てをし、報酬請求をおこないます。
このような経費や報酬などを全て差し引き、残った売却代金が受遺者へ渡すお金です。
相続人が複数いる場合には、遺言書に従い分配をおこないます。
無事に相続が完了し遺言書の内容が果たせたら、完了報告の旨を受遺者に通達しましょう。
遺言がある場合の不動産売却!注意点は何?
遺言によって遺言執行者が定められている際には、不動産売却をし相続するまでの流れが非常にスムーズです。
余計な労力を費やすこともなく、相続人同士による揉め事も回避しやすいです。
とはいえ相続人自身ではなく、遺言執行者が不動産売却をおこなうからこその注意点も存在します。
きちんと理解しておかないと、後々相続人が困る可能性もあります。
一体どのようなポイントに気を付ければよいのか、見ていきましょう。
譲渡所得税が発生する
相続によって引き継いだ不動産を売却し、利益が生じた場合には譲渡所得税が発生します。
要は売却代金から不動産の取得にかかった費用と、不動産会社への仲介手数料などを除いた金額がプラスの場合に課税されます。
利益が生じていなければ、譲渡所得は発生しません。
遺言執行者が不動産売却をおこなっても、相続人自身がおこなっても、利益が発生したら課税されることに変わりありません。
しかしながら、遺言執行者が不動産売却を実行した際ですと、相続人は譲渡所得税の存在を忘れがちです。
もしくは譲渡所得税の存在すら知らないという可能性もあります。
譲渡所得税は、不動産売却時にすぐ税額が確定しません。
翌年の確定申告の際に決定するため、タイムラグが生じてしまいますので、譲渡所得税の存在を知った時には既に現金が手元にないということも考えられます。
また気を付けなければならないのが、売却代金を相続人だけではなく第三者にも遺贈するケースです。
譲渡所得税は所有権のある相続人に課せられます。
そのため税金分を差し引かずに第三者に売却代金を分配してしまうと、相続人が自腹で税金を支払うことになるでしょう。
それを防ぐためにも、第三者に遺贈するのであれば、あらかじめ譲渡所得税分は確保しておくことが重要です。
ちなみに譲渡所得税の税額に関しては、以下の一覧表の通りです。
保有年数5年以下の短期譲渡所得の場合 | 保有年数5年越えの長期譲渡所得の場合 |
---|---|
所得税率30% | 所得税率15% |
住民税率9% | 住民税率9% |
不動産の保有年数は、相続の場合いつの時点からですか?
故人の取得年数を引き継ぐことになります。よって故人が不動産を取得した時点からです
ということは、長期譲渡所得になるケースが多いですか?
そのとおりです
譲渡所得税の節税方法は?
相続のために不動産を売却し譲渡所得が発生した場合、適用できる節税方法としては主に2つです。
- 相続税取得費加算の特例を受ける
- 空き家の譲渡所得の3000万円特別控除を受ける
この2つの控除に関しては、どちらか一方しか適用されません。
よってより節税効果が見込める方を選択する必要があります。
そして譲渡所得を抑えるためには、しっかりと取得費を計上することが何より大切です。
不動産の取得にかかった費用分に関しては税加算の対象になりません。
取得費用が分からないと、概算取得費として譲渡価格の5%のみしか計上できないため、実際の取得費とは大きな差が生じる可能性が高いです。
当時の取得費用が記載されている売買契約書などが見つかれば、取得費として計上できます。
相場より安く不動産を売られる可能性がある
遺言書にて遺言執行者が定められている場合、譲渡所得以外にも注意点があります。
それは不動産の売却価格に関してです。
遺言執行者が不動産を売却すると、相場より安く売られてしまう可能性は否めません。
基本的に遺言執行者には、司法書士や弁護士など法律のプロに依頼します。
そのため法律的な手続きなどはスムーズにおこなえるでしょうが、不動産の知識に関して豊富な訳ではありません。
もっと高く売れそうな場合でも、不動産会社にかけあうことなく売却を決定してしまうこともあるでしょう。
また、遺言執行者はあくまでも当事者ではなく第三者です。
故人が所有する不動産に思い入れがあるかと言えば、そうではありません。
不動産に対して特別な感情がないため、交渉次第ではもっと売却価格を上げられそうな場合でも、そこまでせずに手放してしまうことも多いです。
遺言執行者の務めは、不動産を高値で売却することではなく、遺言書の内容を滞りなく実行することです。
不動産売却以外にもさまざまな業務があるため、不動産売却にそこまで力を入れてもらえない可能性が高いかもしれません。
遺言執行者は不動産売却をする、最終的な権限があります。
強い権限があるからこそこのような事態が発生するため、選定するべきかよく考える必要があるでしょう。
安く売られてしまうのを防ぐためには?
不動産を相場より安く売られてしまう可能性があるのが、遺言執行者による不動産売却の懸念点です。
とはいえ事前にある程度こちらを防ぐ方法はあります。
それはあらかじめ不動産売却する条件を、遺言執行者とすり合わせておくことです。
きちんと売却条件に関して相談しておけば、基本的にはその条件を守ったうえで売却してくれるでしょう。
そこで行いたいのが、自分自身でも一度不動産の相場を調べておくことです。
不動産の相場を把握しておくことで、遺言執行者に話をつけやすくなります。
相続人の場合であっても、あまりにも相場価格とはかけ離れた金額で遺言執行者が売却しようとしている時には、きちんと根拠を示すことで止めやすくなるはずです。
相場を調べる際には、一社だけではなく複数社の査定を受けるのがおすすめです。
一括査定のサイトを活用すると、複数の不動産会社の査定を簡単に受けることができます。
結果を見比べて、正しい相場を知る判断材料にしましょう。
まとめ
遺言書にて遺言執行者が定められている場合、遺産の管理をおこなうのは遺言執行者の役目です。
不動産売却をおこなう権限も遺言執行者にあるため、相続人の1人が勝手に売却してしまう心配がありません。
もし相続人の間でトラブルが発生しそうなら、遺言執行者を選定しておくとよいでしょう。
また遺言執行者は、さまざまな手続きを代行してくれます。
残された相続人の負担を軽減できるのも、遺言執行者を選定しておくメリットです。
とはいえ遺言執行者の権限は非常に大きく、また依頼するとなると報酬も発生します。
このような注意点をきちんと把握し、事前に遺言執行者とコミュニケーションを取ることで、問題はある程度回避できるはずです。