不動産に関連するあらゆる場面で、不動産の適正価格を必要とする時があります。
相続不動産を分割するとき、市場価格よりも低い価格で売却してしまったら、故人が残してくれた大切な遺産の相続分が少なくなってしまうでしょう。
適正な価格を知るということは、公平な取引や分割・分与をする上で重要な要素となるのです。
正確な不動産の価値を知るための方法は、不動産鑑定士に鑑定評価書や不動産査定書の依頼することです。
しかし多くの人は、どんな時に不動産鑑定士に鑑定を依頼するの?鑑定を依頼したら高額な費用を支払わなければならないのでは?と疑問や不安を抱えていることでしょう。
そこで今回は、不動産鑑定評価書と不動産査定書について詳しく解説していきます。
鑑定評価書の評価方法や不動産査定書(価格調査書)の位置付け、二つの違いやそれぞれの料金相場について詳しくお伝えして参ります。
普通の不動産売却でも鑑定が必要になりますか?
不動産鑑定士による鑑定が必要になるのは、特殊なケースのみです。
仲介や買取であればその必要はありませんが、例えば、親族間での売買ではみなし贈与を疑われないために鑑定を要する場合があります。
まずは不動産鑑定が必要になるケースについてみていきましょう。
目次
不動産売買・相続時の不動産鑑定の必要性
不動産の売買や相続するときなど、場合によっては専門家の調査を受ける必要があります。
専門家の調査を受ける必要があるのは、下記のケースです。
個人が専門家の調査を必要とするケース
- 離婚のため財産分与するとき
- 親族間で不動産売買を行うとき
- 相続不動産の遺産分割(公平に分割したいとき、代償分割するため不動産の価格を知りたいとき、遺留分減殺請求をしたいとき)
- 相続税申告において、土地の評価額を下げたいとき
- 相続税対策目的で、生前贈与や負担付贈与を行うとき
- 不動産の交換を行うとき
法人が専門家の調査を必要とするケース
- 不動産を担保に借入れするとき
- 事業譲渡・事業継承・会社分割・会社合併するとき
- 不動産購入時、会計上土地と建物を分ける必要があるとき
- 現物出資を行うとき
- 不動産の時価評価が必要なとき
- 役員との間で不動産売買、交換を行うとき
個人が不動産の価格を知るために利用することの多い、不動産会社の無料査定。
インターネット上で手軽に申し込める便利なサービスが浸透し、売却時に多くの人が利用するようになりました。
不動産会社が行う無料査定は、自身の不動産を売却する場合、適正価格を把握するのに大変有効です。
しかし、この無料査定で知ることができる価格というのは、このくらいで売れると思いますよという売却予想価格でしかありません。
厳密な価格ではありませんし、公的な証明書にすることも出来ないのです。
そのため上記でご紹介したようなケース、つまり証明書が必要になるケースでは無料査定では不十分なのです。
証明書として有効になるのは、専門家が調査し作成した書類のみ。
その書類こそが本記事のテーマとなる、不動産鑑定士による鑑定評価書・不動産査定書となります。
不動産調査の専門家「不動産鑑定士」とは
不動産の調査を行う専門家とは不動産鑑定士と呼ばれる専門資格を有する者で、不動産の適正な価値を鑑定する不動産のプロフェッショナル。
不動産の鑑定評価に関する法律に基づいて制定された国家資格保有者で、高度専門家となります。
物件の売買のみならず、不動産の賃貸や融資判断、公共事業や開発など、不動産業界における幅広い分野で価値判断を支えています。
ちなみに、不動産鑑定評価に関する法律では、不動産鑑定士以外の人が鑑定を行ったり、鑑定書類を作成することが禁じられています。
不動産鑑定業は不動産鑑定士の独占業務となっており、不動産鑑定を行って報酬を得る行為はこの資格を保有するものだけに認められているのです。
従って、不動産会社等が行うのは簡易的な評価(査定)であり、説明書においても不動産鑑定評価書ではないと明記されています。
証明書が必要になるときに鑑定してもらう必要があるのですね!
不動産の価格や価値を証明する資料となるのが、鑑定評価書と不動産査定書です。
でもこの二つは調査方法や法的効力が異なるため、目的によってどちらが必要になるかが変わります。
不動産鑑定士作成の鑑定評価書と不動産査定書の違い
不動産鑑定士が作成するのは鑑定評価書、不動産会社が無料で作成するのが不動産査定書だと認識されている方も多くいらっしゃるでしょう。
実は、不動産査定書には不動産鑑定士が作成するものと不動産会社が無料で作成するものの2種類があります。
前項でお伝えした通り、不動産会社が行う無料査定は証明書としての効力のない、あくまでも売却予想価格となります。
何らかの証明書が必要な時には、不動産鑑定士による鑑定評価書、あるいは不動産査定書が有効です。
この項目では不動産鑑定士による鑑定評価書と不動産査定書について詳しくご説明して参ります。
鑑定評価書と不動産査定書はどちらも不動産鑑定士に依頼して作成してもらうものですので、まとめて不動産鑑定書と呼ばれたりもします。
どちらも費用は有料であり、似通ったものではあります。
しかし、この後の記事を読み進める上で、この二つが別物であることを踏まえておいて下さい。
なぜなら、鑑定評価書と不動産査定書は目的が大きく異なるものだからです。
下記の表は、不動産鑑定士による鑑定評価書と不動産査定書、そして不動産会社による無料査定の違いをまとめたものです。
項目 | 鑑定評価書 | 不動産査定書 | 不動産査定書 |
---|---|---|---|
作成者 | 不動産鑑定士 | 不動産鑑定士 | 不動産会社 |
依頼費用 | 有料 | 有料 | 無料 |
目的 | 税務署や裁判所に対外的に提出する資料 | 身内や社内だけで利用する資料 | 対象不動産の相場や市場価格を知りたいとき |
ではここからは、不動産鑑定士が作成する鑑定評価書と不動産査定書についてより詳しく解説してまいります。
鑑定評価書は国が定めた評価基準に則った不動産評価
不動産鑑定士が作成する不動産鑑定評価書とは、不動産鑑定評価作業における成果をまとめた書面のことです。
鑑定評価作業とは、不動産の鑑定評価に関する法律に基づき、不動産の経済価値を判定し、その価値を貨幣額で表示することを言います。
税務署や裁判所等の公的機関では、法律によって客観性が付与された対外的に通用する書類の提出が求められるのですが、繊細な調査と高度な要因分析を行って作成されたこの書類は、不動産の客観的かつ適正な価値を証明する立証資料となりますので、税務署や裁判所に提出する資料としても有効です。
鑑定評価書に記載される内容に不備や不正があった場合、不動産鑑定士が処罰される規定が設けられています。
こういったことも、信頼性や公平性が保たれる要因といえるでしょう。
不動産鑑定評価書を依頼する場合にかかる費用
不動産の鑑定評価書を不動産鑑定士に依頼する場合、その費用は対象不動産の価値によって変わるのが一般的です。
対象不動産の価値が高いほど、不動産鑑定士に支払う報酬や鑑定料の額も高くなります。
また、更地、土地と建物、マンションなどの区分所有建物、借地権などといった不動産の類型(不動産の種類)によっても費用は異なります。
不動産鑑定士へ支払う報酬額には明確な基準がありません。
実際のところ、鑑定事務所によって費用は異なります。
利用したい場合は各鑑定事務所に連絡し、費用についての確認を行ってください。
下記の表は、標準的な鑑定評価にかかる費用をまとめたものです。
評価額 | 宅地・建物 | 宅地見込み地 | 農地又は林地の所有権、家賃 | 借地権 | 地代・区分地上権 | 建物及び敷地の所有権 |
---|---|---|---|---|---|---|
1000万円以下 | 19万6000円 | 32万7000円 | 44万5000円 | 22万2000円 | 28万6000円 | 28万1000円 |
2000万円以下 | 20万7333円 | 42万6000円 | 56万3000円 | 28万1000円 | 38万5000円 | 34万1000円 |
3000万円以下 | 24万7000円 | 51万8000円 | 63万7000円 | 34万円 | 45万9000円 | 40万円 |
4000万円以下 | 27万4000円 | 56万3000円 | 68万1000円 | 38万5000円 | 50万3000円 | 44万4000円 |
5000万円以下 | 30万1333円 | 60万7000円 | 72万5000円 | 42万9000円 | 54万7000円 | 48万8000円 |
6000万円以下 | 33万0666円 | 63万7000円 | 75万5000円 | 45万9000円 | 57万7000円 | 51万8000円 |
8000万円以下 | 37万1000円 | 68万1000円 | 80万円 | 50万3000円 | 62万2000円 | 56万3000円 |
1億円以下 | 41万6000円 | 72万7000円 | 84万6000円 | 54万9000円 | 66万8000円 | 60万9000円 |
鑑定評価書には鑑定評価額だけではなく、評価額に用いた要因や理由などが詳細に記載されています。
他の不動産関連の書類に比べて圧倒的に情報量が多く、場合によっては数十ページに及ぶこともあります。
細かな情報が記載されているのですね。
鑑定書に記載される評価方法や基準となる価格の種類について詳しくみていきましょう。
不動産鑑定士が行う不動産鑑定の評価方法
不動産鑑定では、地域分析や個別分析などを行い、対象不動産に最も適した方法で評価が行われます。
不動産鑑定士はこれらの鑑定評価の内容に専門家としての判断を加え、不動産評価の決定を行います。
鑑定評価には下記3つのうちのいずれかが用いられます。
- 原価法
- 取引事例比較法
- 収益還元法
これら3つの手法は計算方法が大きく異なりますが、どの手法を選択するかは対象不動産の要因によって決められます。
原価法
原価法は、建物を最初から立て直した場合にどのくらいの費用がかかるのかに基づいて計算を行い、建築時の値段から経過した年数の劣化分の価値を差し引く減価修正を行います。
この手法は対象不動産が土地でも建物でも、再調達原価の算出と減価修正を的確に行うことができれば有効的に算出できるのが特徴です。
そのため、不動産鑑定評価法における定番手法となっています。
取引事例比較法
取引事例比較法とは、近隣不動産の過去取引事例を基にして不動産価格を算出する方法です。
取引の時期や市場全体の動向も比較対象として含まれます。
この手法は、住宅の売買などといった一般消費者の不動産取引において用いられることが多いです。
収益還元法
収益還元法とは、その不動産がもつ将来的に見込める利益を考慮して評価する方法です。
過去の収益実績も参考データに含められるなど、収益データがベースとなるのが特徴的です。
そのため、居住用不動産の評価には向かず、収益物件等の事業用不動産の評価に用いられるのが一般的となっています。
不動産鑑定評価基準の価格の種類
鑑定評価を行う上で基準となる不動産鑑定評価基準。
これは法律で定められた鑑定評価の基準です。
鑑定評価によって求める価格には、下記4つの種類があります。
- 正常価格
- 特定価格
- 限定価格
- 特殊価格
基本的には正常価格となりますが、依頼目的や条件によっては限定価格や特定価格を求める場合もあります。
不動産鑑定士は依頼目的と条件に即して価格の種類を適切に判断し、明確に説明する必要があります。
正常価格
正常価格とは、現実の社会情勢下における市場で形成されると予測できる市場価値を表示する適正な価格のこと。
つまり、売り手と買い手に特別な事情が無い状態で双方が納得した不動産売買をするための取引価格です。
特定価格
特定価格とは、法令などの社会的要請がある際、それらを考慮して算出する価格のことです。
例えば、法令に基づいて財産処分される倒産や自己破産がこれに該当します。
限定価格
限定価格とは、取引市場が限定されている場合に、その当事者双方で決める価格のことです。
例えば、隣接地の併合や借地権者が地主から土地を購入する場合がこれに該当します。
特殊価格
特殊価格とは、一般に売買が想定されていない文化財や公共公益施設などの不動産価格のことです。
厳正な評価が行われているのですね。
法的効力を有する資料となりますので、その調査過程も結果情報量も膨大な量となります。
次にご紹介する査定書は鑑定評価書の簡易版のような位置付けです。
比較しながらみていきましょう。
不動産査定書は鑑定士作成の鑑定評価書の簡易版
近年、不動産のニーズが多様化したことや企業会計における不動産時価評価が一部義務化されたこともあり、不動産鑑定評価書までは必要ないけれど価格等の調査を希望する事例が増えてきました。
そこで出来たのが、不動産査定書と呼ばれるものです。
不動産査定書は鑑定評価書よりも安価な料金且つ短い時間で不動産鑑定士によるサービスを受けられるもので、いわば、不動産鑑定評価書の簡易版のような位置付け。
不動産鑑定評価基準に則さないため利用範囲は限られますが、内部資料としては十分有効なものとなるでしょう。
不動産鑑定評価書の簡易版となる不動産査定書は、意見書・価格調査報告書様式の文書となります。
簡易鑑定として作成されていたこともありましたが、平成21年に発行された鑑定書の指針により、不動産鑑定の書類は下記2つの種類に分けられました。
① 不動産鑑定評価基準に則したもの
② ①以外のもの
本記事でご紹介している不動産査定書は上記②に該当するもの、つまり、不動産鑑定評価基準に則っていない又は則ることが出来ない場合に不動産の価格調査を行って作成されたものということになります。
不動産査定書の特徴と鑑定評価書との違い
不動産鑑定士が作成する不動産査定書は、基本的には不動産鑑定評価基準に準じた方法で評価を行いますが、査定の根拠や説明などを省き、最低限の記述に留めているのが特徴です。
従って、不動産鑑定評価基準に則っていない場合があるため、鑑定評価書とは異なるものであり、公的な証明書としての利用はできません。
資料として提出したとしても、簡易的な鑑定であることを理由に、評価額の妥当性を否定されてしまう可能性があるのです。
相続税の不服申し立ての場合も、法的な価値の無い不動産査定書では申立てが認められる可能性は低いでしょう。
評価額の信頼性は鑑定評価書相当である
公的機関に提出しても認められない書類なら、その調査に意味はあるの?と考えてしまいますが、調査結果は鑑定評価書と大きく変わりありません。
法務局での謄本・公図・図面等の取得、現地及び取引事例の確認、規制の調査や建築確認などを行うため、その結果算出される評価は的確なものです。
鑑定評価基準に則っていないため同額になるとは言えませんが、結果にそれほど大きな差は出ないでしょう。
安価に信頼性の高い結果を受け取れることになりますので、用途次第では十分有効に利用できます。
不動産査定書を依頼する場合にかかる費用
不動産査定書や意見書、価格調査書などは、鑑定評価書に必要な調査や記載事項を省略する代わりにかかる費用も抑えられます。
とはいえ、現地確認や役所調査を行う必要がある限りある程度の費用は必要になるもの。
費用の目安としては10~15万円程度と、鑑定評価書の場合の半分から1/3程となります。
下記の表は、不動産査定を不動産鑑定士に依頼した場合にかかる費用の目安です。
類型 | 費用目安 |
---|---|
更地 | 10~13万円 |
土地+建物 | 15~20万円 |
マンション一室 | 15~20万円 |
アパート | 15~20万円 |
不動産査定書の作成には法律による規定や要件が定められていませんので、鑑定評価書同様、その報酬額や費用は各事務所によって異なります。
詳細な費用を知りたい場合は、鑑定事務所に見積もりを依頼しましょう。
鑑定評価書と不動産査定書どちらが必要?シーン別にご紹介
不動産鑑定士が作成する鑑定評価書と不動産査定書について、その違いをお分かりいただけたでしょう。
ここからは、不動産に関連するあらゆるシーンを想定し、どのような場合に鑑定評価書や不動産査定書が必要になるのかを詳しく解説していきます。
まずは鑑定評価書が必要になるシーンからみていきましょう。
- 離婚のため財産分与
- 親族間で不動産売買
- 相続不動産の遺産分割
- 相続税申告で土地の評価額を下げたい
- 相続税対策目的で生前贈与や負担付贈与を行う
- 不動産の交換を行う
- 不動産を担保に借入れする
- 事業譲渡・事業継承・会社分割・会社合併する
- 不動産購入時に会計上土地と建物を分ける必要がある
- 現物出資を行う
- 不動産の時価評価が必要
- 役員との間で不動産売買、交換を行う
個人が不動産鑑定評価書を必要とするシーンは、主に売買や相続、贈与、節税のために不動産の正確な価値や価格を把握するときです。
例えば、親族間で不動産売買を行うときになぜ鑑定評価書が必要になるのかというと、適正な価格よりも極端に低い価格で売却した場合、贈与税の課税対象になる可能性があるからです。
もし税務署からみなし贈与を疑われても、法的効力のある鑑定評価書を提出すれば、その売買は正確なものであったと証明することが出来るのです。
離婚や生前贈与で不動産を分与・分割する場合も、適正な価格を基にそれらを行うことで、関係者間のトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
広い土地を相続した人も、鑑定評価書を取得することで相続税対策ができるなどのメリットを得られる可能性があります。
法人の場合、不動産鑑定評価書を他の人に見せる必要があるシーンが多くあります。
例えば、不動産を担保に借入れする場合、鑑定評価書があれば融資額の予想が可能となりますし、金融機関にとっても担保の価値を見極めやすくなるため、信頼性を確保し万全を期して融資を実行できます。
不動産を賃貸借するときも、固定資産税や地価の変動が近隣類似物件と比べて不相当になっていないか等の確認が必要であり、また相手方との話し合いをスピーディーに進める上で納得してもらうための説明が必要となります。
そういった時も、鑑定評価書があれば疎明資料として地代や家賃改定等の説明に有効な証明書となるでしょう。
次に、不動産査定書が必要になるシーンについてみていきます。
- 法人が購入したい不動産の役員会での検討資料
- 隣接地購入のための価格の検討資料
- 不動産の再評価を行いたい
- 投資のための価格調査
- 鑑定評価額の時点補正が必要
不動産査定書を必要とするのは、自身が対象不動産の価値を知りたいときや身内間でそれを共有したい場合等です。
不動産を売却する際の具体的な売り出し価格を決めるための参考資料にも適しているといえるでしょう。
不動産会社が行う無料査定は売却予想価格となりますが、こちらは鑑定評価書に準ずる正確性の高い評価額。
公共機関に提出するものではないがトラブルの要因となるものを排除しておきたいといった場合、時間と費用がかかる不動産鑑定評価書をわざわざ取得する必要のない不動産査定書が有効です。
企業が不動産査定書を取得するのに最も多いケースは、大企業が工場や大型倉庫、ゴルフ場、商業施設、ホテル等の大型施設を売却する際です。
一般的な不動産会社は、これらの様な特殊不動産を扱った実績が少なく、適正価格を把握していません。
だからといって鑑定評価を依頼してしまうと、価格や価値を知りたいだけなのに大変高額な費用がかかってしまいます。
そのため、不動産鑑定士に簡易的な評価である不動産査定書を依頼するのです。
また、投資のためのマーケティングの際も、一定の価格の基準を短期間且つ正確に知ることができるため便利です。
第三者への開示を必要としない、社内の内部資料として活用する際は不動産査定書で十分といえるでしょう。
不動産の価値は時間とともに変動しますので、鑑定評価書の有効性も作成した価格時点のみが妥当であるといえます。
つまり、鑑定評価時点とそれを使用する時点では、その評価額に差異が生じているということです。
鑑定評価書は3ヶ月以内であれば有効性が認められますが、1年経過している場合は再鑑定が必要となります。
発行されてから3ヶ月以上1年未満の場合は、鑑定評価書を依頼した鑑定士に価格時点の修正という形で意見書を発行してもらうことで使用可能となります。
個人の不動産売却なら不動産会社の無料査定でOK
親族間売買ではない、一般的な個人の不動産売却であれば、不動産会社の無料査定で十分です。
なぜなら、無料査定で対象不動産の市場価値をある程度把握することが可能だからです。
無料査定の査定額は、このくらいの価格なら売れると思いますよという売却予想価格。
そのため、不動産会社各社によって算出結果は異なります。
しかし、複数社に査定を依頼すれば、その結果がバラバラだったとしてもおおよその中央値を把握することが可能です。
より適正な価格を把握するためのポイントは、一度に複数の不動産会社の査定を知ることが出来る一括査定サービスを利用すること。
インターネット上で無料利用できるうえ、同時点における各社の査定額を把握できるため、相場に違い価格を把握できるでしょう。
不動産鑑定士に依頼する流れと鑑定に必要な書類
不動産鑑定士に依頼する流れは、下記の通りです。
- 不動産鑑定事務所を探す
- 委託契約を結ぶ
- 対象不動産の資料集め
- 地域及び不動産の調査
- 評価報告
不動産鑑定評価書や不動産査定書を依頼する場合は、不動産鑑定事務所を探しましょう。
事前に無料相談できるか、鑑定の費用や報酬は妥当であるかを見極め、適切なところを選ぶことが大切です。
できれば複数の事務所に連絡をし、見積書をとることをおすすめします。
その際は、これまでの不動産取引における実績を確認したり、実務的なコンサルティングができるか、また親身になった相談に応じてくれるかを確認し、最も信頼できるところに依頼することが重要です。
依頼する不動産鑑定事務所を決めたら、不動産鑑定を申し込み、委託契約を結びます。
その後、不動産鑑定士が対象不動産の調査に必要な書類を収集します。
ただし、必要書類のうちのいくつかは依頼主が自宅に保管しているものや本人でなければ取得できないものもあります。
その場合はあらかじめ用意しておくか、不動産鑑定士の指示に従って速やかに準備しましょう。
必要書類はどのような鑑定を行うかによっても異なりますので一概に言えませんが、例として通常の不動産鑑定に必要となる書類を下記にまとめました。
依頼主本人が用意しておくべき書類
- 対象物件の所在地が確認できる書類
- 不動産取得時の(購入時)の売買契約書又は重要事項説明書
- 固定資産税通知書と固定資産税評価証明書
- 建築設計図書
- 建築協定書及び覚書等
- 土壌汚染・耐震等調査報告書
- 賃貸借契約書及び賃料改定の覚書(借地の場合)
- レントロール(賃貸物件の入居状況が分かるもの)
等
不動産鑑定士が取得可能なもの
- 登記簿謄本
- 住宅地図
- 公図
- 建物図面・各階平面図
- 地積測量図
- 建築計画概要書
- 道路台帳
- 上水道配管図
- ガス配管図
調査に要する期間は、不動産鑑定評価で10日~2週間程度、不動産査定書で3日~5日程度が一般的です。
鑑定評価の方針や評価額が内示されるまで一定期間要することを踏まえ、証明書が必要な場合は早めに不動産鑑定事務所に相談に行きましょう。
一般的な不動産売却で相場を把握したい場合は無料査定、裁判所等で提出できる資料は鑑定評価書、社内での共有など内部資料として用いる場合は不動産査定書が必要ですね。
その通りです!
不動産の正確な価格を把握することは重要ですが、重要性の低いものに高額な費用を支払うのは勿体ありません。
その時の状況や対象不動産に必要となる資料を見極め、適切に判断しましょう。
まとめ
ここまで、鑑定評価書や不動産査定書についてお伝えして参りました。
不動産の売買だけではなく、贈与や交換、相続、融資等、不動産に関連するあらゆる場面において、その不動産の価値や価格を正確に証明しなければならない時があるでしょう。
その時有効となるのが、不動産鑑定士が作成する不動産鑑定評価書や不動産査定書です。
不動産の価格を把握するための査定書というと不動産会社の無料査定をイメージする方も多くいらっしゃいますが、これは法的な効力がなく、公的機関等に提出する資料として十分な書類ではありません。
税務署や裁判所に提出する資料として有効なのは、鑑定評価書のみとなります。
多角的な面から不動産の評価を行った結果が記さている鑑定評価書は、客観性が付与された対外的に通用する書類。
鑑定を依頼した場合の費用は15万円~20万円と高額になりますが、あらゆるトラブルを未然に防ぐ、または解決するために大変重要な資料となるでしょう。
不動産査定書は鑑定評価書の簡易版のような位置付けで、鑑定に行う調査や記載する必要事項を簡略化したものとなります。
不動産鑑定評価基準に則っていないため法的効力は持ちませんが、無料査定よりも正確な不動産価値を知りたい場合や身内又は社内でそれを共有するのには十分な資料となるでしょう。
費用は鑑定評価書の半分程度、およそ10万円~15万円程度が目安となります。
ただし、どちらの費用も、依頼する不動産鑑定事務所によって金額が異なります。
依頼先を決める前には複数の事務所に相談をして見積もりを取り、各社を比較したうえで決定しましょう。
調査をスピーディーに行ってもらい、結果を早く出すためには、依頼主自身も書類等を揃えておくことが大切です。