1970年代から農家の高齢化が問題となり、さらには後継者不足も挙げられています。
そのため、作物を栽培しない荒れ果てた休耕地や、耕作放棄地が増加しています。
農地を保有することによって固定資産税の費用もかさむので、そのまま放置せず、売却するなど早急に考える必要があるでしょう。
農地を売却するには、一体どのような方法でおこなうといいのでしょうか。
こちらの記事では、知っておきたい農地売却する方法や流れ、土地査定などについて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
農地を売却する際に必要な許可とそのまま売却、転用して売却する方法
普通の宅地のように不動産売買の方法では、農地は売れないのです。
国の方針としては、農地の減少を防ぎたいということもあり、農地売買は農地法で厳重に管理されています。
そのため、農地を売却するには農業委員会の許可申請が必要になってきます。
売却方法には主に2種類あり、それぞれの条件や手続きの違いがあるので詳しく解説していきます。
農地としてそのまま売却は可能だが条件がある
農業従事者や、農業を事業とする法人限定で、農地をそのまま売却することが可能になります。
その他の条件はこちらです。
- 所有農地は全て耕作をおこなう
- 農作業に必要な人材と機械を所有している
- 現在の耕作面積が50ヘクタール以上である(地域によって異なる)
これから農業をはじめようとしている方や、投資を目的とした方には売却できません。
農地をそのまま売却するのは、買い手が限られてしまうので査定価格はずっと右肩下がりの状態というもの。転用で売却することを考えてみてもよいでしょう。
農地を転用して売却する方法には2つの基準が必要
農地を宅地や駐車場、資材置場などにすることは農地転用になるため、購入者を限られずに売却できます。実は転用すると農地より高値で売れるというもの。
農地転用は「所有者を変えないで農地を転用する方法」と、「売却をすることで農地を転用する方法」の2パターンあり、それぞれ許可を得られないと転用ができないので、確認しておきます。
転用が可能な農地とは、耕作目的に供される田畑などであることが原則で、見た目が農地であることが重要です。
農地を転用して売却する場合には、「立地基準」「一般基準」という2つの基準を満たす必要があります。
1.農地には5つの種別があり、この区分を立地基準と呼ぶ
農地には5つの種類があり、この区分を「立地基準」といいます。
どこの区域にある農地なのか、その場所によって農地転用が可能かどうか決定します。
転用が許可されるのは基本的に下記の表にある2つのみです。
農地種別 | 転用の許可 | 内容 |
---|---|---|
農用地区域内農地 | 原則不許可 | 農業の利用を確保するために指定された区域 |
甲種農地 | 原則不許可 | 農業機械による営農が可能な生産適地 |
第1種農地 | 原則不許可 | 補助金で整備された生産力の高い農地 |
第2種農地 | 一部許可 | 今後、市街地として発展する見込みがある農地 |
第3種農地 | 原則許可 | 市街地区域内にある農地など |
こちらの立地基準の中で、所有している農地がどこの種別に該当するか分からない場合、市役所の農政課に問い合わせすると確認できるでしょう。
農地の転用が許可されやすいのは、この表にもあるように市街地に近い農地になります。
第2種農地や、第3種農地のような市街化区域は、他の目的として利用した方がいいので許可が下りやすくなります。
一方、農業が盛んな農村部にある農用地区域内農地や、甲種農地、第1種農地のような市街化調整区域内は、原則として許可が下りないので農地転用が難しくなります。
その場合、農地として売却することを前提に考えておくべきです。
しかし、まれに許可が通るケースもあります。
農業地区域内農地で除外申請をおこなうときや、甲種農地や第1種農地で、農業関連の施設が建設される場合などです。
2.立地基準を満たしても一般基準の許可が必要
農地転用の申請目的が確実に実現できるかどうか審査することを「一般基準」といいます。
「立地基準」を満たしていても「一般基準」の許可が下りないと農地転用とは認めてもらえません。
転用許可の「一般基準」の条件はこちらです。
- 転用行為を行うのに必要な資力及び信用があると認められること
- 農地の転用行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていること
- 遅延なく、申請に係る農地を申請に係る用途に供する見込みがあること
- 行政庁の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合において、処分がされる見込みがあること
- 一体として申請に係る事業の目的に供する土地を利用できる見込みがあること
- 農地の面積が申請に係る事業の目的からみて適正と認められていること
- 土砂の流出や崩壊などの災害を発生させるおそれがないこと
- 周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがないこと 等
転用許可されていないのに農地を転用すると「3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円以下)」の罰則があるので転用する際には、必ず許可が下りてからおこないましょう。
農地としてそのまま売却する流れは大きく分けると5つの手順
- 紹介などで買主を探す
- 許可の前に契約を結ぶ
- 農業委員会に許可申請をおこなう
- 所有権移転請求権仮登記をおこなう
- 所有権移転登記(本登記)をおこなう
具体的にどんなことを行うのでしょうか?
詳しく流れを解説していきますね。
1.紹介などで買主(農家や農業を事業としている法人)を探す
農地としてそのまま売却するときは、農家や農業を事業としている法人から、買主を探さないといけません。
農家を紹介してもらうなど自分で買主は探せますが、条件に見合うとなると、なかなかみつけることが難しいです。
買い手がみつけにくいときは、一括査定サイトなどで農地売買を得意としている不動産会社に、問い合わせてみるか、農業委員会などに相談するのがいいでしょう。
また、農地中間管理機構の制度もあるので活用しましょう。
農地中間管理機構とは
農業をリタイアするので農地を貸したいときや、利用権を交換して分散した農地をまとめたいとき、新しく就農するので農地を借りたいときなど利用できる農地バンクのことです。
2.先ず許可の前に農地の売買契約を結ぶ
許可の前に買主と、契約を締結します。
すぐに売買契約を結ぶ理由は、成立が不透明な状態だと許可が下りないことがあり得るからです。しっかり確認しておきましょう。
3.売買契約が終わってから農業委員会に許可申請をおこなう
契約が終わったら、農業委員会に許可申請をおこないます。
申請に必要な書類は農業経営証明書や、耕作計画書などさまざまありますが、内容によっては書類も違ってくるので、申請の前に農業委員会に問い合わせておくといいでしょう。
申請から許可までの処理期間は、各自治体によって異なりますが約1ヶ月程度となっています。
4.許可が下りたら所有権移転請求権仮登記をおこなう
まずは仮登記をおこない、所有権を買主に移転されます。
仮登記をおこなっておくことで買主の所有権移転を保全します。
必ず仮登記をしなくてはいけない、という決まりはありませんが手続きをスムーズにするために、おこなっておきましょう。
はいっ!わかりました!
5.最後の仕上げで所有権移転登記(本登記)をおこなう
許可になると農業委員会から許可指令書が交付されるので、所有権移転登記の本登記をおこなうことができます。許可指令書がないと本登記は、受け付けてもらえません。
買主から代金を受け取って精算し、これで売買完了になります。
かりに、許可が下りなかった場合、当事者から申し入れがなくても契約が失効します。
農地を転用して売却するには農業委員会に転用許可を得るのが必須
- 不動産会社に依頼する
- 許可が前提条件で契約を結ぶ
- 農業委員会に転用許可申請をおこなう
- 所有権移転請求権仮登記をおこなう
- 所有権移転登記(本登記)をおこなう
農地としてそのまま売却する流れと、少し違いがあるので具体的に解説していきます。
農地売買の実績がある不動産会社に依頼すると尚良い
一般的に不動産会社を通して転用売却のときも買主を探します。
農地を宅地にする場合、土壌改良も必要になってくるため、農地に詳しい不動産会社に依頼するといいでしょう。
農地の取引実績がある不動産業者の場合、知識と経験が豊富なので契約もスムーズに進む可能性があります。不動産業者の腕によって大きく異なるといえるでしょう。
では農地売買に強い不動産会社を見分けるにはどうしたらいいのか、ポイントをお伝えします。「農地売買の取引実績と口コミや信頼度を確認する」ことです。
たとえば、不動産業者の「免許番号」を確認したり、不動産情報サイトの口コミ評価をみたりします。
農地売買を得意とする不動産業者を、みつけるためには、不動産一括査定サイトの利用もおすすめです。
「農業委員会の許可」を前提条件で売買契約を先に結ぶ
農地としてそのまま売却するケースと一緒で、許可を条件として契約を結びます。
売買契約書には「許可が下りてから本契約の効力が発生する」という停止条件をつけて売買契約をします。
買主は転用目的を、詳しく申請しないといけないので、利用目的を曖昧にしたまま契約を結べません。しっかり確認しておきましょう。
農地転用の許可申請を各自治体へおこなう
申請をする際は、各自治体によって毎月の受付期間が決まっていることがあるので、事前に調べておきます。
農地が市街化調整区域の場合、転用する際に農地法の許可に加え、都市計画法の開発許可も必要なので不動産会社に相談しながらすすめていきましょう。
こちらの場合も申請から許可までの処理期間は、約1ヶ月程度となっています。
許可が下りる前に所有権移転請求権仮登記をおこなう
農地売却と同様、許可が下りる前に仮登記をおこないます。
許可が下りたら買主に所有権を移転すると約束の仮登記ですが、必ずおこなう必要はありません。
しかし、お互い安心できてトラブルの回避にもなるので、手続きしておくことがおすすめです。
許可が下りたら所有権移転登記(本登記)をおこなう
許可が下りたら、売却と共に本登記ができます。代金を精算し売買完了です。
一方許可が下りなかった場合は、契約が無効となり違約金は発生しません。
手付金も、そのまま買主に返還されます。
農地の売却にかかる仲介手数料や諸費用と税金についてまとめ
農地を売却するときに支払う費用は、「不動産業者に支払う仲介手数料」と「行政書士に支払う費用」の主に2つあり、それぞれ解説していきます。
不動産業者へ依頼した場合に支払う仲介手数料
不動産業者へ依頼した場合は、契約の手続きや、資料作成、売主と買主の間に入って話し合いをおこなう対価として、業者に仲介手数料を支払います。
仲介手数料は「宅地建物取引業法」により上限額が定められています。
売却金額(取引額) | 仲介手数料(上限) |
---|---|
200万円以下 | 取引価格5%+消費税 |
200万円超え〜400万円以下 | 取引価格4%+2万円+消費税 |
400万円超え | 取引価格3%+6万円+消費税 |
こちらの仲介手数料は宅地についてなので、農地は適用されず規定はありませんが、実際には農地でもこの計算が使われていることが多いようです。
農地の売買には仲介手数料の決まりがないので、不動産業者に手数料を早めに確認することをおすすめします。
一方、個人で売買をおこなった場合は業者を挟んでいないので、仲介手数料は発生しません。
行政書士に農地転用申請を代行した場合に支払う費用
農地を転用して売却する場合は、行政書士に転用申請の依頼をするので、コストがかかります。
- 市街化区域内地位域は約10万円
- 市街化調整区域は約15万円
自分で申請をおこなう場合や、買主と一緒におこなう場合は、こちらの費用はかかりません。
農地を転用して売るときだけに、かかる費用なので、農地として売却する場合は費用がかりません。
農地の売却にかかる税金は一般の不動産売却と同類
農地だけではなく、一般の不動産売却にも発生する税金はこちらの3つです。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税
不動産売買契約書に添付する印紙税額一覧
売買契約書は売主と買主のそれぞれ2通に、収入印紙を貼り付けて税金を納めます。印紙税は、契約金額によって変わります。
地域 | 本則税率 | 令和4年3/31までの税率 |
---|---|---|
10万円超 50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超 100万円以下 | 1千円 | 500円 |
100万円超 500万円以下 | 2千円 | 1千円 |
500万円超 1千万円以下 | 1万円 | 5千円 |
1千万円超 5千万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5千万円超 1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円超 5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円超 10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円超 50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円超 | 60万円 | 48万円 |
「所得税法等の一部を改正する法律」によって、令和2年4月1日から令和4年3月31日までに作成されるものは、印紙税の軽減措置が適用されます。
所有権を登記する際にかかる登録免許税
買主の所有権を登記する際に、国に納める税金のことを「登録免許税」といいます。
令和3年3月31日までの所有権移転登記には免税措置があり、税額は農地の評価額(固定資産税評価額)×1000分の15を支払い、それ以降の令和3年4月1日からは、1000分の20を支払います。
所有権を売主から買主に移転する際にかかる登録免許税は、基本的に買主の負担です。
不動産売却によって得た利益にかかる譲渡所得税
土地や建物などを売って得た利益のことを「譲渡所得」といい、この譲渡所得には「所得税」や「住民税」がかかり、これらの総称したものが「譲渡所得税」といいます。
どうやって計算するのですか?
譲渡所得の計算式はこちらです。
譲渡所得=「売却金額(譲渡収入金額)」-(取得費+売却費用)
- 売却金額:土地などを売った金額
- 取得費:購入したときにかかった費用
- 売却費用:売るために支払った手数料や費用
譲渡所得の計算式で利益が出た場合の「所得税」と「住民税」の税率は、所有していた期間によって異なります。
- 5 年以下の短期譲渡所得の所得税は30%、住民税は9%
- 5年超えの長期譲渡所得の所得税は15%、住民税は5%
譲渡所得税=「譲渡所得」×(所得税+住民税)
ちなみに具体例として、農地を売却して得た利益「譲渡所得1,000万円」の場合、それぞれ譲渡所得税がいくらになるでしょうか。
5年以下の短期譲渡所得だと所得税が300万円になり、住民税が90万円の合計390万円です。
一方、5年超えの長期譲渡所得だと所得税が150万円で、住民税が50万円の合計200万円になります。
所有期間の違いで譲渡所得税は、190万円という大きな差が出るで、しっかり確認しておきましょう。
わかりました!先生!
農地の売却には利用目的で額面が異なる特別控除がある
農地の売却にかかる税金を紹介しましたが、農地には特別控除があり、控除額は利用目的で異なり、800万円、1,500万円、2,000万円、5,000万円とあります。
800万円の特別控除が適用される場合は、担い手への譲渡を促すため、農業経営基盤強化促進法の農用地利用集積計画などにより譲渡したときです。
1,500万円の控除は、買入協議により農地中間管理機構などに譲渡した場合で、2,000万円の控除は、農業経営基盤強化促進法の農用地利用規程に基づき農地中間管理機構に譲渡した場合に認められています。
5,000万円の控除は、農地が転用目的で土地収用法などにより買い取られる場合になります。
農地の価格相場は一般の不動産価格と同様に地域などで異なる
農地の価格は25年ほど前からずっと下がり続けています。
理由としては、農業従事者の高齢化が進んだことによって、農地の買い手が少なくなっていることや、農地の賃借の増加などによって、売買の需要が減退しているからだと考えられます。
また、農地は種類や地域によって価格が異なり、それぞれ価格相場を紹介していきますのでご覧ください。
純農業地域と都市的農業地域で価格は全く異なる
農地の地域には「純農業地域」と「都市的農業地域」があり、同じ面積でも価格は全く異なります。
純農業地域とは
都市から離れた農村部にある農用地区域内の農地のことです。都市計画法で線引きをしていない市町村を指します。
都市的農業地域とは
市街化区域内でおこなわれている農地のことです。
地域によって、土地の価格は変わってくるのですか?
都市的農業地域にある農地は、純農業地域に比べると高く売却できます。それぞれ比較してみましょう。
全国の純農業地域と都市的農業地域の価格相場
令和2年3月27日に全国農業会議所が公表した、令和元年の農地平均価格表です。
純農業地域
地域 | 田平均価格 | 畑平均価格 |
---|---|---|
全 国 | 1,165 | 861 |
北海道 | 242 | 115 |
東 北 | 554 | 334 |
関 東 | 1,501 | 1,617 |
東 海 | 2,265 | 2,055 |
北 信 | 1,339 | 918 |
近 畿 | 1,949 | 1,393 |
中 国 | 732 | 434 |
四 国 | 1,702 | 943 |
九 州 | 854 | 590 |
沖 縄 | 885 | 1,246 |
都市的農業地域
地域 | 田平均価格 | 畑平均価格 |
---|---|---|
全 国 | 3,087 | 2,951 |
北海道 | 441 | 465 |
東 北 | 1,463 | 1,240 |
関 東 | 1,758 | 2,221 |
東 海 | 6,549 | 6,376 |
北 信 | 2,347 | 2,059 |
近 畿 | 3,385 | 3,176 |
中 国 | 4,007 | 2,724 |
四 国 | 4,349 | 3,571 |
九 州 | 1,730 | 1,511 |
沖 縄 | – | 4,976 |
(単位:千円/10a)10a=1,000㎡
※令和元年田畑売買価格等に関する調査結果のデータ
令和元年の全国平均農地価格はそれぞれ、純農業地域の田んぼは116万5千円/10aで、畑は86万1千円/10aでした。
都市的農業地域の田んぼは308万7千円/10aで、畑は295万 千円/10aです。
この表から分かるように、純農業地域と都市的農業地域の価格は約3倍の違いがあります。
また、令和元年全国平均の宅地価格は2年連続上昇しており、農地価格は宅地価格の「約100分の1」程度の価格になります。
農地の価格はずっと下落したままで、転用できるなら宅地として売却したほうが査定額に100倍ほどの価格差が生じることでしょう。
農地を売却するときの土地査定とは宅地と計算方法が大きく異なる
農地をなるべく高く売却するなら、農地の査定方法を知っておくことが大切です。
農地の査定額は宅地と計算方法が大きく異なるので、そちらも詳しく解説していきます。
農地は地域のニーズで価格は変わらない
農地と宅地の査定方法の違いは、農地は地域のニーズで価格が変わらないということです。
宅地の査定額を決めるのは、駅や大型商業施設へ近い立地の良さや、治安の良さ、周辺の地価相場、需要、面積などからです。
基本的には、このようなニーズによって土地の価格が決まるので、都市部に近くなるほど高くなり、郊外になるほど安くなるでしょう。
一方、農地は農作業をおこなうための土地であるため、農作物にとって良い環境かどうかで査定額が決まります。
次に、農地の査定額を決めるポイントを紹介していきます。
農地の査定額を決める9つの要因
農地は同じ面積でも価格が大きく異なり、100万円の価格から数千万円の価格まで違いがあるというもの。
面積が同じ農地の価格がこれほどまで違うのは、以下9つの総合的な評価になります。
- 日照や乾湿、雨量
- 土壌の状態
- 農道の整備状況
- 灌漑(かんがい)と排水
- 耕運(田畑を整備すること)がスムーズにできるか
- 民家との距離
- 集荷場と近いか
- 災害の危険度
- 公法上、私法上の規制、制約
こちらの要因で農地は評価され、さらに面積や立地などで査定額が決まります。
それぞれ詳しく解説していきます。
日照や乾湿、雨量
農地が農業に適しているかどうか判断するポイントは、日照量と土地の乾湿、雨量などです。
こちらの条件が良いと農作物の質も良くなるため、農地を高く売却できる要素になります。
土壌の状態
農地の土の状態はとても大事なポイントになります。
農地の土壌や土層の状態が良くないと、農作物に影響が出てしまうからです。
地盤がしっかりしていると宅地に転用しても高く売れるので重要なポイントといえるでしょう。
農道の整備状況
農道が舗装されていることによって、大型の農業機械が通れるので農作業の効率が上がるというもの。
そのため、見込める売り上げにも期待できるので、高く売却できるでしょう。
農道が狭く砂利道だと、作業が限られてしまうので、こちらも重要な判断になります。
灌漑(かんがい)と排水
灌漑と排水の循環がポイントです。
灌漑とは
水路を作って田畑に必要な水を引いて、土地をうるおすことをいいます。
また、農作物を育てるためだけではなく、風害や高音を防いだり、害虫予防になったり、いろいろな効果があります。
灌漑と排水の状態が良くなかったら、売却する前に手入れしておきましょう。
耕運(田畑を整備すること)がスムーズにできるか
田畑を耕し、雑草などを取り除き整備することを耕運(こううん)といいます。
作物の種まきや、植え付けをするときに、土壌を改善する作業でもおこなわれます。
耕運がスムーズにできる土か、または耕運機を取り入れられる農道なのかで判断されるポイントです。
民家との距離
民家などの都市部から農地までの距離がどのくらいあるかで評価は変わってきます。
前述したように、都市部へ近いほど農地の価格は上がるので所有農地の区域を確認しておくといいでしょう。
(価格が高い順:第3種農地>第2種農地>第1種農地>甲種農地>甲種農地>農用地区域内農地)
集荷場と近いか
農作物を出荷するため、各農家が集荷場へ行きます。
その際、農地と集荷場の距離が近いと効率がいいため、評価のポイントになります。
災害の危険度
集中豪雨などにより、土砂崩れの災害を受けやすい農地などは、評価が低くなります。
農作物を安全に栽培できる環境が、農地には望ましいので都市部に近くても査定額に影響は出るでしょう。
公法上、私法上の規制、制約
農地の売却にもっとも影響を受けるのはこちらのポイントになります。
具体的な法律は「農地法」と「都市計画法」の2つです。
規制や、制約など事前に確認しておく必要があります。
農地を売却する際の注意点や2022年以降価格下落の恐れ
農地を売却する上で気をつけておくことはこちらです。
- 農地が荒れていると売却できない
- 農地の固定資産税
- 2022年以降は農地の価格が下がる恐れがある
耕作を放棄し農地が荒れていると売却できない
耕作を放棄してしまい、荒れた農地のことを「休遊農地」「耕作放棄地」といいます。
休遊農地や耕作放棄地となった農地は、農地として売却できません。
また、農地としてみなされず、税金の優遇を受けられません。
もし、荒れ果てた農地となってしまった場合は、手入れをして農地に戻す必要があります。
手入れするには、農家の方に貸し出し耕作をしてもらうか、自費で業者に依頼するなど方法があります(業者の費用は、10a=1,000㎡で10万円ほど)。
売却できずにいる耕作放棄地を手放したい場合は、前述した農地中間管理機構の制度を活用しましょう。
農地中間管理機構には、農地の賃借制度があるので、再生できる耕作放棄地の場合、大規模の農家が借りてくれる可能性があり、農地として戻る上に、賃料を得られるでしょう。
農地を転用して売却する際にも同様で、農地を再生しておく必要があります。
宅地と違い優遇されている農地の固定資産税
農地は宅地と違って、固定資産税の優遇があります。
一般的な固定資産税の計算式は、「固定資産税評価額×1.4(標準税率)」で出されています。
農地の固定資産税評価額は、農作物の算出額で出され、その金額に0.55×をかけて、そこから減額を受けられることも。
農地を転用すると、宅地と同じ税金になるので固定資産税評価額は、路線価より算出されて税額が農地よりも数百倍になることがあるので注意しておきましょう。
また、農地によっては転用しなくても宅地と同じくらい課税される区分もあるため確認しておきましょう。
農地の固定資産税は表にある4つの区分で異なります。
農地の種類 | 評価 | 課税 |
---|---|---|
生産緑地 | 農地評価 | 農地課税 |
一般農地 | 農地評価 | 農地課税 |
一般市街化区域農地 | 宅地並み評価 | 農地課税 |
特定市街化区域農地 | 宅地並み評価 | 宅地並み課税 |
生産緑地と一般農地は農業をおこなう前提の農地です。そのため、固定資産税は農地評価となります。
一方、一般市街化区域農地と特定市街化区域農地は、農地が今後宅地化になる可能性があるので宅地評価の適用になります。
生産緑地法により2022年以降は農地の価格が下がる恐れがある
なぜ2022年以降に農地の売却価格が下がるかというと、生産緑地にかかわる法律の変化があるからです。生産緑地とは都市部である市街化区域の農地のことです。
生産緑地法は1992年に定められた制度で、生産緑地に指定された農地は、固定資産税が農地並みのまま維持できる代わりに営農を条件づけられました。
固定資産税が農地並みのまま優遇されるのは、期間があり30年間の限定です。
1992年に施行され、30年後の2022年には解除されるので、農地は宅地並みの課税になるため、一斉に多くの農地が売り出されることが予想できます。
都市部の農地がたくさん売り出されることによって、郊外の農地はさらに価格が下落する恐れがあります。
生産緑地の2022年問題ですが、実は2017年に国が生産緑地法の改正を行いました。
- 特定生産緑地の指定を受けることで、税制優遇措置の期間を10年延長できる
- 生産緑地の面積要件を引き下げる
- 生産緑地地区での建築規制が緩和
こちらの3つの改正により、2022年に生産緑地の農地が一斉に売りに出されることは、ある程度回避されると考えられます。
しかし、2022年に生産緑地法が解除されるのは変わりありませんので、農地の後継者がいないのであれば早めに売却を検討する必要もあるでしょう。
まとめ
農地の売却は宅地の取引と違って、複雑な手続きになっています。
農家の高齢化や後継者不足の問題で、農地を売却する方は増えていますが、これらの知識を入れて農地をなるべく高く売れるようにしましょう。
年々農地の価格は右肩下がりで、さらには2022年の生産緑地法の解除もあるため、農地が今以上、下落する前にタイミングをみて売却を検討してみてはいかがでしょうか。
まずは農地取引に強い不動産業者を探すことをおすすめします。
農地一括査定サイトなど利用するのもいいでしょう。
農地売買にはさまざまな書類の提出があるので、売却を思い立ったら早めに農業委員会などに相談をし、スムーズに契約が進めるよう、この記事を参考にしていただけたら幸いです。